看護学?リハビリテーション学研究

看護学?リハビリテーション学研究からのアプローチ

透析治療の効率を高め 健康を養う運動を啓発

釼明 佳代? 助教
医療福祉学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻
釼明 佳代? 助教

腎臓の機能が悪化して末期症状になった場合、血液をろ過して老廃物や有害物質を排出する役割を機械が担う「人工透析」。大量の血液を透析器に流し込むこの治療法は週3回、1回につき4時間程度行う必要があり、その間は横たわったままの状態で過ごさなければいけません。釼明先生は、治療中に適度な運動を行うことで透析の効率が上がる手応えを得ながら、運動量と内容などの検討とデータ採取に注力しています。

運動不足解消から始まったペダル漕ぎ運動

近年、透析患者の高齢化が進んでおり、身体機能の低下から転倒などによる怪我で入院する深刻なケースも増えています。運動不足による体力や身体機能の低下も進みやすくなり、転倒などによる怪我で入院する深刻なケースも頻発しています。週に1度、透析クリニックに勤務している釼明先生は、「年齢が高くなっていくにつれて足腰も弱くなるので、運動で健康推進するモチベーションや機会がどうしても少なくなってしまいます。理学療法士として透析患者の運動を指導する中で、着目したのは透析中の運動でした」。透析中は、血管に針を刺してチューブを通して装置とつながっているため、長時間、行動が大きく制限されてしまいます。その中で、ベッドに仰向けになったまま行うことのできる自転車を漕ぐ運動に着目しました。

心身ともに好影響を与える運動療法

透析中の運動は体力や筋力を養うだけではなく、血液循環が活性化し、透析効率の向上につながるという研究結果があり、透析中の運動を取り入れている施設も増えてきました。「以前は、透析患者や腎臓病の患者は安静にするということが推奨されていましたが、適度な運動は多くの効果をもたらすことがわかっています。最近では、透析になることを予防するという目的でも運動療法が注目されています。透析になってからも元気でいきいきと過ごすために運動は重要になってきます」と釼明先生。こうした効果は高齢者に限ったことではないそうで、「透析は日常生活においてかなり多くの時間を割かれてしまうので、特に仕事を持っている人にとっては肉体的にも、精神的にも負担が大きいですが、透析効率が向上し、気晴らしにもなるといった面でもメリットが期待できます」とも言及。


血液を運ぶチューブがダイアライザーにつながる実際の透析装置

2つの学術分野によるアプローチで 研究精度をアップ

現在、透析中の運動を想定し、ベッドに横になって自転車のペダルを漕いでいる時の血流の反応に関する詳細なデータを採取中。また、車輪の回転数やペダルの重さを変化させ、運動療法の効果や透析効率との関係性を検討しています。
この研究には、学科を超え、老虎机游戏臨床工学科の髙橋るみ先生と連携し、共同で研究を進めています。「透析医療機器が専門の髙橋先生と勉強会でご一緒する機会があり、理学療法士の学術分野では得られない工学的な専門知識を詳しく学ぶきっかけになり、透析の効率と運動を結びつけて調べるきっかけになりました。データ測定の際は、臨床工学科の学生も参加しており、理学療法の視点と臨床工学の視点から研究を考えています」と釼明先生。


横になりながらペダルを踏んで運動と透析効率の関係を分析

さらなる研究でより多くの臨床に役立てたい

将来的には、現在関わっている透析クリニックで、実際の透析患者から運動データの測定ができるよう準備を進めているという釼明先生。実践による手応えも十分に得られており、「3年ほど勤務していますが、実際に透析中の運動を実践している患者さんたちから『日常の行動が楽になった、体力がついてきた、減量ができた』といった良好な感想を得ていますので、効果を実感できています」と笑顔で話します。
さらに、「透析中の運動が、患者の健康寿命を伸ばすことにつながる研究成果は、これからもっと重要性が高まっていくと考えています。透析中に運動を指導する理学療法士の数もまだ少ないので、私が取り組んでいる研究から得られたデータによって、有効性を広めていければと思っています」と展望も示してくれました。


透析中に行う運動の効果について熱心に語る釼明先生

理学療法士として健康増進の機会にも注力

実務経験が研究テーマに結びつくことが多いそうで、呼吸筋トレーニングに関する研究では「腰痛がひどい患者や寝たきりの患者でも腹筋のトレーニングが効率的に実施できればと研究に取り組みました」。大学での学究に対する意欲も見せながらも、健康寿命の延伸や予防医療の啓蒙にも強い使命感を持っている釼明先生。「医療施設の外で病気や怪我を予防する取り組みに関わる理学療法士が、まだまだ少ないと感じています。本学に就任する前は、地域の方を対象に健康教室を開催したり、運動の指導を行ったりして健康への意識向上に努めました。また、コロナ禍で中断していますが、透析クリニックでも患者のご家族や腎臓に不安を抱える方を対象に、運動や生活改善について話をする機会を設けています。私が専門とする透析患者はもちろんですが、運動のメリットを広く啓発し、健康増進を進める機会づくりにも力を入れていければと考えています」。