教科書を書きました。
総合政策学部教授 矢口和宏
先月の15日に経済学の教科書を出版した。タイトルは『経済学概論』であり、大学1年生が学ぶべき経済学の内容をコンパクトにまとめたものである。私は、編者として全体の調整を行うと同時に、一著者として2章分を執筆した。
私が執筆したのは、序章と第1章である。そこでは高校で学習する経済の内容から始まり、大学で学ぶ経済学の概観、そして経済学の考え方を説明している。高校の学習範囲から書き起こしたので、担当章を執筆する際には高校で使用されている現代社会や政治?経済の教科書をいくつか読んでみた。どの教科書も文部科学省の教科書検定に通ったものであるから、学習指導要綱に示された内容をふまえていて体系的に書かれており、教育的な観点から大いに感心した。
大学の教科書は市販の書物であるから、そこには著者の個性があらわれる。また、著者の校正不足による誤植や、専門的な内容であるがゆえに、見当違いによる明らかな間違いが見られるものもある。私も大学時代に担当教員が書いた教科書を利用した授業に出席したとき、偶然にも誤植を見つけてしまった。早速、授業終了後に先生に確かめにいくと、先生は素直に礼を言ったうえで、「ちゃんと注意深く読んでいるかどうかの教育的配慮だよ」と笑って言った。
私が所属する総合政策学部では少人数教育を重視しており、1年生から4年生までゼミナールが必修科目になっている。ゴールデンウイーク前の2年生の基礎ゼミナールでは、テキストの読み方に関する講義と演習を行った。そこでは、①大学のテキストには入門書と専門書があること、②入門書は基本的には体系的に書かれてはいるが、大学教員は教育のプロではないので、わかりにくい箇所も多々あること、③大学には学習指導要綱がないので、入門書といえども取り上げている内容には一貫性がなく、個性が出ることを受講生に伝えた。
このように、基礎ゼミナールでは一人前のことを言っているが、果たして自分の教科書の出来栄えを問われると、いささか自信が揺らいでくる。本当に経済学のエッセンスを抽出していて、学生にとってわかりやすいものになっているのか不安になる。学生には誤植でもいいから、わかりにくい所を指摘してもらいたい。そのときには、私が習った先生のような対応をとりたいものである。
*筆者の『経済学概論』は以下の内容です。
http://mirai-inc.jp/books/others/o_378-6n.html