文字サイズ
総合政策学部 総合政策学科

地域に希望を託すこと

2018.09.18
総合政策学部准教授 馬内里美

 東日本大震災関連の特別講座を担当して四年目になる。過去三年間、構成を若干変更しながら、テーマも「震災後の地域づくり」に落ち着いた。指定テキストとして、大江正章著『地域に希望あり ――まち?人?仕事を創る』を選んでいる。理由は特別講師のお二人が登場しているからだ。どちらの地域も都会の物差しで見ると、遠くて不便である。しかし、豊かな資源を十全に生かすことができたら、可能性を考えさせる地域であろう。
 一人は福島県会津地方の三島町在住。最近、福島の番組をテレビで見ていたら、三島町に移住した人が紹介されていた。伝統的林業と蔓細工の工芸が盛んであるとともに、外にも開かれた町だ。会津若松から電車では一時間以上かかり、私もちょうど八年前にゼミ合宿で行ったが遠かった。
 もうお一人は、石巻市北上地区十三浜在住のSさん。浜のリーダー的存在で、ご自身、大切な奥様とお孫さん、さらに多くの親類を失いながら、漁師たちから懇願され、十三浜の運営委員長として復興事業に尽力された。半年前にお誘いを受け、新居を訪問した。遠路大学までお越しいただきながら、遠くて訪問する機会を逸していた。石巻の大型店舗から市民バスで行けると思っていたら時間的に無理だと判明した。石巻線の鹿又駅で降り、道の駅まで二キロメートルほど歩き、半時間以上市民バスを待つ必要があった。私のほか一人しか乗客がいないバスは、誰も乗降しないが、各地を経由して進む。最寄りの停留所に着いたのは、大学を出発してから四時間過ぎていた。帰りは、多くの児童が津波で犠牲になった大川小学校跡を案内していただき、石巻の大型店まで送っていただいたが、一時間かかった。しかし、いま振り返ると市民バスで時間をかけてゆく道すがら、いろいろな発見があった。帰路でも郷土史研究にも熱心なSさんから伺った説明に触発された。北上川下流域の歴史に興味をもち、関連図書も読み、降りた駅名すら知らなかったほど疎かった地域の地名をかなり覚えた。
 震災前から、この地に注目する研究者もいて、また外部との交流も盛んだったこともあり、震災後も様々な交流があるという。Sさんは今年度から特別講師はご辞退された。代わりに、今秋、地域連携センター主催の見学会で、従来の女川町に加え、十三浜を訪問することにしている。新たな企画に、新たな発見があると期待している。