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総合政策学部 総合政策学科

陳其人先生への思い

総合政策学部教授 王元

 

陳其人先生の講義を学部と院生時代に受けた。母校の復旦大学国際政治学部の11年間、学問の大半は王滬寧先生から授かり、研究生活の姿勢は王邦佐先生から教えていただいた。しかし、方法論は陳其人先生に啓発された部分が一番大きいのである。復旦大学「五大金剛」の一人で学部では「方法論第一」との評価が久しいが、『新資本論』を書こうとされ、文革中右派とみなされ、長い間埋没されてきた方である。
 

2008年9月、私は母校で講演した時、「陳其人先生が我々の学祖である」、との発言に教員達から熱烈的な賛同を得た。「学祖」というのは、其人先生は私の師の滬寧先生の指導教授であり、私はその学孫の世代であるからだ。
 

陳其人先生の学問の神髄は曰く「抽象のための捨象」である。中国人はよく「擺事実、講道理」(事実を並べて、道理を講じる)と言うが、事実(現象)は千差万別であるので、いくら並べても世界の本質(道理)を見つめることは不可能である。関係のない現象を故意に無視する。そして、分析の刀を鋭く研ぎ、真の可能性の有る事実を抽出するのだ、と先生から何度も言い聞かされた。
 

広東人の其人先生がアメリカの「飛了鳥飛鴉(フィラデルフィア)」にある「ちょっと有名な」プリンストン大学から一年間の客員生活を終え、帰国して大学院の資本論の講義で講壇に上がった。時は1986年11月の初冬のある日だった。午後の講義で西側の教室だった。同学の林尚立、桑玉成、周帆、夏明などを含め、受講生は十二、三名しかいなかった。「抽象のための捨象」についての話しを終え、売猪仔(訪米)について話しをされ始めた。教室の空気に奇妙な躍動感が感じられる中、先生の声があたりに響き渡る、「プリンストンの図書館は素晴らしい」「席に戻るのが面倒だ」「疲れたら、本を重ねて上に座ろうと思ったが、全人類の共通の財産なのでしなかった」「毎日シャワーを浴びた。資本主義の水だから、さらさらと流した」と。
 

先生は冗談を言うつもりだが、笑う受講生は一人もいなかった。頭髪のそれほど多くない先生の頭頂にタ日が照り映え、尊顔から湯気がゆらゆらとまつわりながら立ち上がる。あの時、先生は聖人に見えました。