時事問題の中の数学
2019.2.19
総合政策学部准教授 河本 進
厚生労働省は,「毎月勤労統計調査」で不適切な調査をしたことにより,毎月の勤労者の平均給与額を本来算出されるべき額より低く算出したことに関して,2019年1月11のホームページで(※1),雇用保険の失業給付などの追加支給の対象者は延べ1900万人以上,支給総額は537億5000万円に上ることを明らかにした。
また,同日の厚生労働省のホームページでは(※2),
●「毎月勤労統計調査」では,比較的給与水準の高い「500人以上規模の事業所」については,全事業所について調査することとしていたところ,東京都のみ概ね3分の1の事業所しか調査をしていなしなかったこと(※3)。
●一部のデータを抽出して調査した場合は,全部のデータを抽出した場合のデータに復元する作業が必要であるのにもかかわらず,東京都では平均給与額の推定値を算出する際に,平成29年までの調査ではデータの復元の操作がされていなかったこと。
などを確認された事実として明らかにした。
ここでは,これらの方法で計算した平均給与額が,なぜ本来の算出されるべき額より低く算出されるのかを,簡単な数値例を用いて説明する。
例えば,
?「500人以上規模の事業所」の従業員の総数を30万人,平均給与額を40万円/人
?「500人未満規模の事業所」の従業員の総数を270万人,平均給与額を30万円/人
であるとする。
このとき,
?「500人以上規模の事業所」の給与総額は1200億円(30万人×40万円/人)
?「500人未満規模の事業所」の給与総額は8100億円(270万人×30万円/人)
となるので,両方のデータを併せると,300万人(30万人+270万人)の給与総額が9300億円(1200億円+8100億円)になる。
したがって,全体の平均給与額は
31万円/人(9300億円÷300万人)
となる。
次に,「500人以上規模の事業所」の全従業員の3分の1の10万人の調査をしたときの,平均給与額も40万円/人であるとする。確認された事実として明らかにされた必要な復元の操作とは,簡単に言うと10万人の調査をしたが,30万人の調査をしたときの平均給与額も同じ40万円/人であるとみなして全体の平均給与額を推定する方法である。つまり,復元の操作をすると,平均給与額は先ほど計算した31万円/人と推定される。
ところが,復元の操作を行わないと
?「500人以上規模の事業所」の給与総額は400億円(10万人×40万円/人)
となるので,「500人未満規模の事業所」のデータと併せると,280万人(10万人+270万人)の給与総額が8500億円(400億円+8100億円)になる。
したがって,全体の平均給与額は
約30万3571円/人(8500億円÷280万人)
となる。
このように,給与水準の高い「500人以上規模の事業所」の調査で復元の操作を行わないと,平均給与額が実際の平均給与額より低く推定されることになる。
なお,平成30年1月以降の調査分の集計については復元されていることも明らかにされている。この数値例では,復元をしていない平均給与額から,復元をした平均給与額に修正すると平均給与額が約2.12%上昇することが分かる。昨年は,平均給与額が上昇したとの報道をたびたび耳にしたが,東京都で復元の操作を行うようになったことも,平均給与額の上昇に影響を与えていたと思う。
また,同日の厚生労働省のホームページでは(※2),
●「毎月勤労統計調査」では,比較的給与水準の高い「500人以上規模の事業所」については,全事業所について調査することとしていたところ,東京都のみ概ね3分の1の事業所しか調査をしていなしなかったこと(※3)。
●一部のデータを抽出して調査した場合は,全部のデータを抽出した場合のデータに復元する作業が必要であるのにもかかわらず,東京都では平均給与額の推定値を算出する際に,平成29年までの調査ではデータの復元の操作がされていなかったこと。
などを確認された事実として明らかにした。
ここでは,これらの方法で計算した平均給与額が,なぜ本来の算出されるべき額より低く算出されるのかを,簡単な数値例を用いて説明する。
例えば,
?「500人以上規模の事業所」の従業員の総数を30万人,平均給与額を40万円/人
?「500人未満規模の事業所」の従業員の総数を270万人,平均給与額を30万円/人
であるとする。
このとき,
?「500人以上規模の事業所」の給与総額は1200億円(30万人×40万円/人)
?「500人未満規模の事業所」の給与総額は8100億円(270万人×30万円/人)
となるので,両方のデータを併せると,300万人(30万人+270万人)の給与総額が9300億円(1200億円+8100億円)になる。
したがって,全体の平均給与額は
31万円/人(9300億円÷300万人)
となる。
次に,「500人以上規模の事業所」の全従業員の3分の1の10万人の調査をしたときの,平均給与額も40万円/人であるとする。確認された事実として明らかにされた必要な復元の操作とは,簡単に言うと10万人の調査をしたが,30万人の調査をしたときの平均給与額も同じ40万円/人であるとみなして全体の平均給与額を推定する方法である。つまり,復元の操作をすると,平均給与額は先ほど計算した31万円/人と推定される。
ところが,復元の操作を行わないと
?「500人以上規模の事業所」の給与総額は400億円(10万人×40万円/人)
となるので,「500人未満規模の事業所」のデータと併せると,280万人(10万人+270万人)の給与総額が8500億円(400億円+8100億円)になる。
したがって,全体の平均給与額は
約30万3571円/人(8500億円÷280万人)
となる。
このように,給与水準の高い「500人以上規模の事業所」の調査で復元の操作を行わないと,平均給与額が実際の平均給与額より低く推定されることになる。
なお,平成30年1月以降の調査分の集計については復元されていることも明らかにされている。この数値例では,復元をしていない平均給与額から,復元をした平均給与額に修正すると平均給与額が約2.12%上昇することが分かる。昨年は,平均給与額が上昇したとの報道をたびたび耳にしたが,東京都で復元の操作を行うようになったことも,平均給与額の上昇に影響を与えていたと思う。
※1 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03208.html
※2 https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf
※3 「500人未満規模の事業所」については,もともと全事業者から一部の事業者を抽出して調査をしている。
※2 https://www.mhlw.go.jp/content/10700000/000467631.pdf
※3 「500人未満規模の事業所」については,もともと全事業者から一部の事業者を抽出して調査をしている。